KTV
2025年8月、台北のKTVで友人たちと夜更けまで。
最初の10分で理解した。ここは“うまく歌う場所”ではない。“場を走らせる場所”だ。
一人がリモコンを握り、曲キューがバンバン積まれていく。サビになると別の手が自然にマイクを差し出す。採点?そもそも見当たらない。

KTVで体験したこと
入室してすぐ、幹事役の彼がリモコンを奪う。カチャカチャッ——画面右側のキュー欄がみるみる伸びて「×12」。
「え、そんなに入れる?」と身構える間もなく、1曲目のサビで二本目のマイクが胸元に当たる。
「一緒に!」の合図。知らない曲でもハミングで参加。
途中で「採点つける?」と聞いたら、「それ要る?」と笑われた。メニューにもボタンにも見当たらない。勝ち負けの空気が最初からない。
なぜ起きる
- 沈黙を作らない設計:誰かが“DJ”役になってキューを絶やさない。曲は途切れず、会話と笑いがその上を走る。
- 合唱が前提の娯楽:ソロの披露より“みんなで歌って盛り上がる”。サビは合図なしでコーラスが重なる。
- 時間+飲食の楽しみ:低消(最低消費)を満たしつつ滞在を楽しむ発想。歌と食が同じテーブルにある。
- 勝負の外にいる:採点がない/入れたがらないので、点に縛られた緊張が生まれない。音程より“温度”。

日本との違い
- キューの主導
- 日本:各自が自分の番を待つ“持ち回り”。
- 台湾:1人(または数人)が“流れ”を組む。テンポが落ちたらノリの曲を差し込み、場の体温を守る。
- マイクの意味
- 日本:基本はソロ。合いの手は控えめ。
- 台湾:サビ=全員参加。歌い手の肩口にマイクがスッと差し込まれ、自然に重なる。
- 採点の扱い
- 日本:採点機能が娯楽として定着。
- 台湾:そもそも採点がない(少ない)/誰も求めない。歌は競うものではなく、時間を温めるもの。
- 曲の並べ方
- 日本:自分の順番を守る。
- 台湾:“今”に最適化。明るい→しっとり→また上げる、を誰かが組む。
やさしさ/価値
- サビ前に目で合図してマイクを添える:強制ではなく“どう?”のテンポで。
- 知らない曲でも手拍子とコーラス“アー”で参加:音を出す人を孤立させない。
- リモコン係は2人:独占を避け、テンポを落とさない。
- 飲食は“残さない量”で回す:低消を満たしつつ、果物・軽食で長丁場。
- 写真はひと言確認:SNSに強い人が多いから、載せる前に「OK?」の一声。
スマートに過ごすコツ
- 最初に“場起こし曲”を2曲だけ:いきなり連投せず、温度が伝わる中速曲を置く。
- 自分の番を待たない:空気が落ちたら、幹事に「次これ入れていい?」と短く提案。
- バラードは1曲ごと:沈黙が伸びやすい。テンポ曲と交互に。
- 採点は持ち出さない:点より“合唱で楽しかったか”が全て。
- 歌詞をスマホで即検索:サビだけでも口が回ればもう仲間。
体験メモ
一番の衝撃は、1人がバンバン曲を入れるスピード感。
“配慮がない”のではなく、“場を止めないための役割”だった。合唱でサビが厚くなると、歌のうまさより笑い声が勝つ。
採点がないから、最後に残るのは点数表ではなく、喉の渇きと写真と「楽しかったね」の余韻だけ。
まとめ
- 台湾KTVはDJ役が流れを作り、合唱で温度を上げるのが基本。
- 採点は出てこない/求められないので、勝ち負けの緊張が消える。
- コツは**“自分の番”より“いまの温度”**。連投しない、サビで入る、沈黙を作らない。
- 初めてでも、手拍子+一言の合図で輪に入れる。歌の正解より、夜の心地よさを。